アナボリックステロイドは、その圧倒的な効果の反面、強い副作用があることも知られています。
しかし、「アナボリックステロイドの後遺症は一生残る」「内蔵が駄目になる」など、副作用が誇張されすぎているきらいがあります。結果、「本当はどんな副作用があるのか?」はあまり知られていません。
実際、アナボリックステロイドのほとんどは、医薬品として、今でもHIVの患者や低テストステロンの患者に処方されています。ほんとうに「一生モノの後遺症が残る」のなら、現在に至るまで処方され続けるわけがありえませんよね?
アナボリックステロイドの副作用、本当のところはどうなのか?
この記事では、科学的な研究、健康な男性にステロイドを投与した研究などを引用しながら、「アナボリックステロイドの副作用」をどこよりも詳しく解説していきます。
1.男性ホルモンの生成能力の低下
アナボリックステロイドを使えば、ほぼ確実に起こる副作用が、この「男性ホルモンの生成能力の低下」です。睾丸がテストステロン(男性ホルモン)をつくる能力が低下してしまうのです。
なぜこんなことが起こるのか?アナボリックステロイドを投与すると、体内の男性ホルモンの濃度が大幅に高まります。すると、身体(主に睾丸)は、「もう十分すぎるほどホルモンがあるから、新しく生成する必要はないな」と判断して生成を減らしてしまうのです。
次のグラフを見てください。最初のグラフは、体内のアナボリックステロイドの濃度で、次のグラフが睾丸が分泌する男性ホルモン(テストステロン)の濃度を示したグラフです。両者が綺麗に反比例の関係になっているのがわかるはずです。(出展1)
このように、ステロイドホルモンが増えれば、反動として、自然に生成されるテストステロンの分泌量が低下してしまうのです。もちろん、ステロイドの濃度が下がれば、テストステロンも元に戻ります。これはステロイドサイクルで、ほぼ確実に起こる副作用です。
グラフを見ればわかるように、ステロイドの体内濃度が低下するにつれ、身体の男性ホルモンの生成能力は自然に回復していきます。
ただ、男性ホルモンのレベルが低下すると、筋肉が落ちてしまう恐れがあります。そこで、クロミッドという睾丸の機能を高める薬を使い、男性ホルモンの生成能力を早急に回復させるのが一般的です。
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2.肝臓に負担をかける
経口ステロイドの一部は、肝臓へ負担をかけます。
通常、経口でステロイドホルモンを摂取しても、すぐに肝臓でろ過され、無効化されてしまいます。そこで、経口アナボリックステロイドは、体内に長くとどまれるよう「17αアルキレート」加工がされています。
体内に薬物が長く留まるということは、それだけ肝臓に負担をかけることになります。
ただ、お酒や市販薬も肝臓へのダメージがあるわけで、「肝臓に影響がある=ヤバイ」ではありません。重要なのは「どれだけダメージがあるか」です。
マウスに大量にアナボリックステロイドを投与した研究
マウスに8週間、大量のアナボリックステロイドを投与して肝臓への影響を調べた研究があります。この実験では、人間でいえば、ダイアナボル200mg/dayと、通常のサイクルで使う10倍ほどの量が投与されました。(出展2)
結果はどうだったか?マウスの肝臓のスコアは、投与していないマウスと比べても差がなく、正常の範囲内におさまる程度の影響しかなかったのです。
アナボリックステロイドは肝臓に負担をかけますが、それはお酒などと同じで、取り過ぎなければ、それほど害ではないのです。
血液透析の患者も平気だった
アナボリックステロイドの中でも肝臓への負担が強いとされるオキシメトロンを血液透析の患者に24週間にわたり、投与した研究があります(出展3)
オキシメトロンを投与された患者は、筋肉が肥大し、脂肪が減少していました。また、参加者は誰一人大きな副作用を発症しませんでした。
肝臓のスコアも、実験前から9.2%上昇しただけで、健康な範囲におさまるレベルの上昇でした。
3ヶ月やめれば健康に戻る
このように、アナボリックステロイドの肝臓への負担は思われているほど重くありません。
仮に、アナボリックステロイドによって、肝臓へダメージがあったとしても、3ヶ月もステロイドを断てば、健康なレベルに戻ることが研究によって示されています。(出展4)
この研究では、3ヶ月間だけステロイドの服用をやめた16人のボディービルダーと、12人のナチュラルビルダーの肝臓の状況を比較しました。すると、ステロイドビルダーとナチュラルビルダーの間の肝臓の数値に差はなかったのです。つまり、肝臓は完全に回復していたのです。
なぜこのような結果になるのか?肝臓は、手術で70%を切除しても、4ヶ月後には元の大きさに戻る自己再生能力があるからです。ステロイドでダメージを受けたとしても、肝臓の再生能力が正常に働いていれば、すぐに元に戻るわけです。
とはいっても、肝臓へ負担をかけるのは事実です。肝臓を回復させるため、肝臓の自己再生能力を底上げするシリマリンを使って、肝臓を保護しましょう。
3.女性化乳房
アナボリックステロイドの副作用として「女性化乳房」があります。これは画像のように、男性にも関わらず、乳房が、女性のように膨らんでしまう症状です。
女性化乳房が起きる仕組み
なぜそんなことが起こるのでしょうか?体内には、「アロマターゼ」という酵素があり、テストステロンの一部をエストロゲン(女性ホルモン)に変換します。
ステロイド服用によって、体内に大量のテストステロンがあふれると、その大量のテストステロンが「アロマターゼ」によってエストロゲンに変換されてしまいます。結果、大量のエストロゲンが体内にあふれてしまうわけです。
この大量のエストロゲンが、乳房にあるレセプターと結びつき、女性化作用を引き起こしてしまうのです。
ノルバデックスで副作用を防ぐ
この副作用を防ぐために、ステロイドユーザーは、ノルバデックスという薬剤を使用します。ノルバデックスは「エストロゲンが結びつくべきレセプターに優先的に結びつき、エストロゲンの働きを邪魔し、エストロゲンの作用を無効化する」薬剤です。
ノルバデックスを使うことで、この副作用を無効化することができます。
あまり起こる副作用ではない
ただ、実は、この副作用、あまり頻繁に起こるものではありません。健康な成人61人に20週にわたり、テストステロンを投与した研究(出展5)でも、誰も女性化乳房を発症しませんでした。(実験で使用されている量は、ボディービル目的と遜色ない量)
複数の薬剤を使用したサイクル以外では、女性化乳房は、あまり起こらない、レアな副作用といえるでしょう。
4.男性型脱毛症の促進
一部のアナボリックステロイドには、男性型脱毛症(男性型ハゲ)を促進してしまう恐れがあります。
アナボリックステロイドが男性型脱毛症を引き起こすメカニズム
体内には、5αリダクターゼという酵素があり、テストステロンの一部はDHT(ジヒドロテストステロン)というホルモンに置換されます。
DHT(ジヒドロテストステロン)は、二次性徴をつかさどるホルモンですが、成年後は、男性型脱毛症や前立腺肥大症の原因になるホルモンだということがわかっています。
ステロイドの服用により、大量のテストステロンが変換され、大量のDHT(ジヒドロテストステロン)が体内にあふれます。大量のDHTがハゲを促進してしまうのです。
現在、脱毛が進んでいる人は注意が必要
ただ、この副作用は全員に起こるわけではありません。DHTによるハゲが起きるかどうかは、頭皮にDHTのレセプターがどれだけあるかで決まります。頭皮にDHTのレセプターが少ない人は、アナボリックステロイドをとっても、ハゲません。
しかし、日本人のうち、4人に1人は、頭皮がDHTの影響を受けやすいタイプだということがわかっています。このタイプに該当する人は、ステロイドによってハゲを促進してしまう恐れがあります。
この副作用を防ぐには、プロペシアとよばれる薬剤を使い、テストステロンをDHTに変換する酵素の働きを阻害する必要があります。
5.ニキビ
DHT(ジヒドロテストステロン)は、成年後には、ニキビを引き起こすホルモンでもあることがわかっています。ステロイドサイクル中に、大量のテストステロン→大量のDHTというサイクルが起こり、ホルモンバランスが崩れ、ニキビが出来てしまう可能性があります。
この副作用を防ぐためには、プロペシアとよばれる薬剤を使い、テストステロンをDHTに変換する酵素の働きを阻害する必要があります。
6.ロイドレイジ(攻撃性の上昇)
アナボリックステロイドのよく知られている副作用に「ロイドレイジ」というものがあります。
テストステロンは、攻撃性・積極性にかかわるホルモンなので、ステロイドにより、テストステロンを大量に投与することで、精神のバランスが崩れ、攻撃的・獰猛な人格になってしまうというものです。
しかし、この副作用、実はかなり疑わしい都市伝説なのです。
実際に、テストステロン(アナボリックステロイドの一種)を109人の男性に投与して、アナボリックステロイドの精神への影響を調べた研究があります。(出展6)結果が以下の表です。
全体の5%にしか「攻撃性の増加」は認められませんでした。ちなみに、投与量は、ボディービルに使われる量と遜色のない量ですから「量が少ない」ということでもありません。
全体の5%という数字は、偽薬でも起こりうるレベルです。科学的に「アナボリックステロイドと攻撃性の増加に因果関係がある」とは、とても言えない結果なのです。
7.コレステロール値の悪化
これはほぼ確実に起こりうる副作用です。アナボリックステロイドは、善玉のHDLコレステロールを低下させ、悪玉のLDLコレステロール値を増加させることが、数々の研究で示されています。
とはいっても、これはあまり深刻な副作用ではありません。というのも、最近では、悪玉LDLも含めて「総コレステロールは多い方がいい」とうことがわかってきているのです。
52421人を6年間に渡って追跡調査した大がかりな研究によれば、コレステロールは低いほうが死亡リスクは高くなるという結果が出ています。一般的な高コレステロールは、220mg/dlを超えた場合を指しますが、同研究では200~280mg/dlの群が一番死亡リスクは低かったと報告されています。
これらの結果を受け、日本でも厚労省が「日本人食事摂取基準」から食事からのコレステロール摂取目標量が撤廃しました。
アナボリックステロイドは副作用としてコレステロール値に影響を与えますが、あまり気にする必要はない副作用でしょう。
アナボリックステロイドの危険性は誇張されすぎている
ここまでアナボリックステロイドの副作用について、おそらく日本で公開されているどんなドキュメントよりも詳しく論じてきました。
おそらく「思っているよりも大したことがない」と感じたのではないでしょうか?正直、アナボリックステロイドの副作用は、あまりに誇張されすぎていると感じています。
調査でわかった!8年間ステロイドを使うと人はどうなってしまうのか?
たとえば、ステロイドを最低8年以上利用していたボディービルダーが1年間ステロイド断ちをした後の健康状況を調査した研究があります。(出展7)
結果はどうだったか?8年以上、大量にアナボリックステロイドを服用したにも関わらず、どの数値も、健康な男性と同じレベルになっていたのです。
ステロイドを8年間以上使ったとしても1年間やめるだけで、健康に戻るのですね。アナボリックステロイドの危険性がどれだけ極端に誇張されているかがわかるでしょう。
「一生、ステロイドを使い続ける」なんて人はいないでしょう。ステロイドは適切にオフをとれば、健康に問題のないレベルで使える一つの証拠ではないでしょうか。